「日本再生」の視点から、財政問題を考える | 再生日本21


「日本再生」の視点から、財政問題を考える

政府部門「債務超過」に

ここのところ、連日と言っても過言ではないくらい、我が国の財政問題の深刻さが報じられています。
今この原稿を書いているのは平成22年2月22日ですが、今朝の日本経済新聞は1面で「政府部門『債務超過』に」と報じていました。
記事にも書かれていますが、政府部門が民間企業でいう「債務超過」に陥っても、即座に財政破綻を意味するものではありません。
しかし、財政改革がいっそう急がれる事態に追い込まれているのは間違いありません。

財政改革の本丸は社会保障

このようにここのところ様々な角度から日本の財政問題が報じられていますが、その中でピンポイントで的を得た指摘をされているなと感じたのが、
2月1日付日本経済新聞朝刊に掲載された「歳出改革、本丸は社会保障」という井堀利宏東大大学院教授のお話でした。
井堀教授は以前、政府税制調査会の委員もされていた財政学の専門家です。
その井堀教授にインタビュアーが「鳩山政権の財政運営をどう評価しますか」と問うたのに対し、井堀教授はこう答えます。
「財政規律の優先順位がかなり低い。(中略)今を乗り切れば、日本経済がまた良くなるというならいいが、このままでは10〜20年後はもっと厳しいのではないか。
経済成長は慢性的にマイナスになるかもしれない。若い人たちは団塊世代の社会保障を支えつつ、今の財政赤字のツケも払わされる。(中略)
歳出改革の本丸はやはり社会保障だ。痛みも伴う改革、必要性の低い給付の効率化や抑制がないと財政は持たない」。

公共事業費は5兆円、社会保障費は27兆円!

この井堀教授の話を読んで、多くの方は「なぜいきなり社会保障なんだ? まず無駄な公共事業を削るべきだろう」と思われたのではないでしょうか。
八ッ場ダムに象徴される「無駄な公共事業」は、財政問題を論ずる時必ず取り上げられます。確かに「無駄な公共事業」をやめる必要はあるでしょう。
しかし実は、極端な話で公共事業をゼロにしたとしても、財政の問題は解決しないのです。
「国家財政が大変だ」と不安に駆られている方は多いのですが、意外と予算の中身はご覧になっていないようです。
そこで平成22年度予算の中身を見てみることにしますが、平成22年度の一般会計予算で、公共事業費は5兆7731億円(前年度当初予算比18.3%減)に過ぎません。
歳出(国の支出のこと)で最も大きいのは社会保障関係費で27兆2686億円(同9.8%増)、
次が国債費(国債に関する償還、利払い、事務取扱費の総コスト)で20兆6491億円(同2.0%増)です。
これだけ見ても、問題は一に社会保障費、二に国債費と考えるのが普通でしょう。
さらに、下のグラフをご覧下さい。
これは今年1月、財務省主計局(予算編成を司る部局)が作成した「我が国の財政事情」という資料の中にある「一般会計の主要経費別歳出額の推移」というグラフです。
これを見れば一目瞭然です。歳出の中で恐ろしいほどの勢いで増え続けているのも、一に社会保障費、二に国債費なのです。

【図1】
予算
2月1日の日経新聞には、菅直人財務相のインタビューも掲載されていました。1面に掲載されたその記事の見出しは「社会保障財源6兆円不足」。
平成23年度予算では、社会保障関係費だけで約6兆円の追加財源を探す必要があるというのです。
6兆円の追加財源ということは、上記平成22年度予算で5兆7731億円の公共事業費をゼロにしてその分を全て回しても足りないということです。
こういう現実を直視すれば、どう考えても社会保障費にメスを入れねばならないのは明らかではないかと考えます。

小さくなる経済規模、減少する税収

社会保障費が本丸ということ以外にもう一つ、先の記事の中で井堀教授は重大な指摘をされています。
「経済成長は慢性的にマイナスになるかもしれない」というところです。
井堀教授はここでは「かもしれない」と述べていますが、実は既に4年以上前に、井堀教授は将来の日本のマクロ経済について試算をし、
その結果として「数年後から日本のマクロの経済規模は縮小することになった」と断定的に述べているのです。
今から4年以上前の平成17年10月29日、都内のある大学で「日本財政、破綻を免れるためには」というシンポジウムが行なわれました。
このシンポジウムの参加者は、当時政府税調会長であった石弘光氏。人口減少経済の問題点を早くから指摘されていた政策研究大学院大学教授の松谷明彦氏。
経済界を代表して経済同友会代表理事の方。そして、当時政府税調特別委員もされていた井堀教授でした。
このシンポジウムでは、まず松谷教授が日本経済縮小論を主張しました。
「これからわれわれは経験したことのない人口減少、右肩下がりの経済という時代を迎える。2010年代の半ばくらいまでの間には、間違いなくマイナス成長に陥る」。
これに対し、石税調会長(当時)は立場もあるのでしょうか、「マイナス成長、税収減とまではいかないのではないか」と楽観論を展開しました。
井堀教授が発言したのはその後です。
「私も最近試算をしたが、結果は松谷さんが指摘したように、数年後から日本のマクロの経済規模は縮小するということになった。
よほど楽観的な技術進歩を想定しない限りは、少子化で労働市場に入ってくる人の数が減り、貯蓄率もどんどん低下していくので、GDPはやがては減らざるを得ない」。

戦後のアメリカは借金大国だったが・・・・・・

実は先進国で今の日本並みに借金を負い、そこから立ち直った国は存在します。終戦直後のアメリカです。
終戦直後のアメリカといえば、われわれ日本人からすると大変豊かなイメージがありますが、実際は大恐慌に続く大戦争で、
終戦の年1945年の国債発行残高は国民所得比で160%にも達していました。では、なぜアメリカは国家破産しなかったのでしょうか。
色々な要因はありますが、基本は経済成長したからです。
戦後のアメリカは、世界経済の復興に合わせて世界に向かって物資を供給し続けることで、「黄金の50年代、60年代」という時代を作りました。
こうして経済が成長し、税収が増えたがために、財政は回復していったのです。
このように、国の経済規模、GDPが大きくなるかどうかというのは、財政問題を考える時には極めて重要です。経済成長によって財政危機を克服する。
これがもし可能であればベストなシナリオです。しかし、井堀教授、松谷教授が指摘するように、これからの日本に安易にそれを期待することはできません。

18年前と同じ日本のGDP

それを裏付ける数字が2月15日、内閣府から発表されました。最新のGDP統計です。それによれば、2009年の名目GDPは474兆9240億円。
この水準は実に今から17−18年前の1991年−92年(平成3年−4年)頃と同じなのです。
ちなみにさらに17−18年さかのぼった1973年−74年(昭和48年−49年)の名目GDPは110兆円−130兆円くらい。
つまり、日本経済は昭和40年代の終わりから平成の初めにかけての17−18年間では約4倍にも拡大したのですが、
それ以降の17−18年間は全く成長できなくなってしまっているのです。これからの15年、20年、マイナス成長になっても全くおかしくない。
それどころか、それを覚悟して日本の財政政策は考えなければならないのです。
慢性的なマイナス成長ということは、基本的に慢性的に税収が減るということを意味します。
そうであるならば、何としても財政規模を膨らましてはなりません。先のシンポジウムでの松谷教授の発言です。
「これからやるべきことはどんなことをしても支出を削減することだ。それが可能かと言われれば政治的には非常に難しい話だと思うが、そうしなければ破綻する」。

日航は「あすの日本」か

今、民主党は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げています。非常にウケのいいキャッチフレーズです。
しかし、人にお金を付けるというのは国民を既得権者にすることです。誰でも一度得られた権利を削られるのには抵抗します。
まして今の日本は、“公”という意識が失われ“私”の権利意識ばかりが幅を利かす社会、そういう愚民に媚びる衆愚政治といっていい状態だと思いますので、
松谷教授が言うようにそれを削るのは「政治的には非常に難しい」のは間違いありません。
そして、「そうしなければ(=削らなければ)破綻する」というのも間違いないでしょう。
日本航空は破綻に至ってようやく、年金の削減(OBで30%、現役社員で53%)に合意がなされました。愚かなことです。途中で何とかならなかったのか……。
日経新聞は昨年12月6日付で「『日航』は日本を映す鏡」、今年1月18日付で「日航は『あすの日本』か」と伝えました。
上述しましたように、今、日本は税収は減る一方で、社会保障費は恐ろしいほどの勢いで膨張し続けています。今のままでは今後も膨張し続けます。
そして、ついに破綻に至って(IMF管理下ででしょうか)ようやく、社会保障費3割減、5割減となる……。その道を確実に進んでいるように思われてなりません。

私たち自身がこの国のことを考えよう

今回は財政問題に関して考えるポイントの一端をお伝えしてきました。しかし、私達の国=日本が抱えている問題はこればかりではありません。山ほどあります。
その根本は、先にも書きましたが、政治家・官僚のみならず、私たち日本人全体が“公”という意識を喪失し、
“私”の世界ばかりに生きるようになったところにあるのではないかと思います。はっきり言って、このままでは日本の将来は絶望的と言っても過言ではないでしょう。
しかし、私たちの先人たちは、幾多の国難を乗り越えてこの国を築いてきました。幕末から明治にかけてもそうです。
一歩間違えば植民地になる差し迫った状況を乗り越え、明治日本を世界の一等国にまで育てていったのは、
そういう国難をわが事としてとらえ、考え、行動した草莽の志士たちでした。要は、人次第です。
財政をはじめとする今の日本が抱える諸問題を、ただ単に政治家のせい、官僚のせいにしていてもしょうがありません。
私たち自身が考え、変えていくしかない、私たち自身が草莽の志士になるしかないのです。

㈱再生日本21
執行役員 稻田雅彦