加藤秀樹氏インタビュー | 再生日本21


加藤秀樹氏インタビュー

構想日本代表 加藤秀樹氏インタビュー

「本当は統合されていない3つの年金
——不祥事ばかりを追うのではなく、問題の本質を突くべきだ」

政策シンクタンク「構想日本」代表の加藤秀樹氏年金制度の本当の問題点とは何か。行政の仕組みに詳しい「構想日本」の加藤秀樹代表に話を聞いた。加藤氏は、「5000万件の年金記録漏れ」問題を「ただの不祥事」と一蹴し、「その背後にある、“年金の仕組み・制度の問題点”を考えなければいけない」と語った。

「5000万件記録漏れ」はただの不祥事

——5000万件の記録漏れなど、社会保険庁をめぐる一連の騒動についての率直な感想をお聞かせください。

【加藤】 記録漏れというのは年金制度の問題ではなく、不祥事。汚職や職員が事件を起こしたというのと同列の話。これは100%、政府・行政側の責任なのだから、自分で仕組みを作って対応するということに尽きる。但し、時間がある程度かかるのは仕方ない。むしろ時間ばかり限定するのは、政治的なポーズにすぎる。

——政府は社会保険庁を解体し、2010年に新たに日本年金機構を設置します。これは果たしてきちんと機能するのでしょうか?

【加藤】制度は同じままで、運用する主体を社会保険庁からある種の独立行政法人に変えるだけでは変化はない。道路公団を民営化という名の下に、施設の管理・運営をやる組織と、保有機構とに分割したが、やっていること自体は何も変わっていない。それと同じことだ。

保険料を集めたり事務手続きをやっているだけのところの仕組みを変えたって、制度が変わらない限り何も変わらない。

——社会保険庁の職員の資質を問題視する声も多いですが?

【加藤】 それは問題設定の仕方が間違っている。「役所が悪い、役人が悪い」と言っているから、役所を変えたり役人のクビをきったりすれば変わると思っている。これが大間違いだ。

“年金の仕組み”自体に問題がある。この仕組みの中で、マネージメントや事務的な仕事をするのが役所であり、そこで働くのが役人というだけの話。だから、役所や役人を変えたって、“年金の仕組み”が変わらなければ、変わらない。


「基礎年金は実はバラバラ」

——“年金の仕組み”の問題点とは何でしょうか?

【加藤】 本来、国民年金、共済年金、厚生年金という別々のものだったが、1986年に「基礎年金」を導入して、3つの年金に共通の部分をつくった。厚生労働省はこれを、「基礎年金は、3つの年金を統合した一本の仕組みで、厚生年金と国民年金は2階部分で少し違う」と説明している(図1参照)。
厚生労働省の説明
【図1】年金制度の仕組みを紹介する際に一般的に使われる「3階建て」の図。
一階部分が共通の「国民年金」=「基礎年金」と説明されている。


しかし実は、いまだに3つの年金は別々のまま運営されている。形式的に、基礎年金をつくったが、仕組み自体はまだばらばらのままだ(図2参照)。

今回の5000万件記録漏れという不祥事の根本的な原因もここにある。公的年金は1本につながっているように見せかけているが、実際は3つが別々の仕組みで動いている。しかし、職業が変わったりすると、厚生年金から国民年金に変わったりと、別の年金に移動したりする。別々の仕組みの中で、記録をやりとりしているから、5000万件もの記録が行方不明という事態が起きてくる。原因自体は単純な話だ。
年金制度の実態

【図2】年金制度の実態の図。国民年金、厚生年金、共済年金は、負担の方法も給付方法もそれぞれ別々の制度のままで、基礎年金の部分さえ統一されていない。


——この話には驚きました。必ず年金の説明にはこの3階建ての図が出てきます。でも実際には、そこが別々のままになっているというのは、私も含めた一般の人は知らないのではないでしょうか。

【加藤】年金というのは、払うほうと貰うほう、つまり負担と給付の両方がある。国民年金、厚生年金、共済年金で、おなじ所得水準でも、払うのも貰うのもすべて違うでしょう。

それに、国民年金は未加入、未払いという大きな問題がある。4割もの人が払っていなければ、給付などできない。

だから、国民年金=基礎年金は共通という「架空」の設定を作って、厚生年金や共済年金加入者が払ったものを、国民年金に補填している。


年金保険料には「明細」がない

——3つの制度はばらばらなのに、お金の移動だけひとつになっています。そこが混乱する原因になっているのですね。

【加藤】給料明細書には「厚生年金保険」として天引きされた額が書いてあるが、「基礎年金でいくらかかっています、厚生年金など2階部分でいくらかかっています」ということは書いてないでしょう。まとめて取られて、その中のいくらが基礎年金に回されて、厚生年金がいくらかという説明はない。

もし、明細が書かれていれば、いくら払ったからいくら返ってくるかという計算ができる。そうすると、もらったときにいくら食い違うかはっきりとわかる。

しかし明細がないから、何割が国民年金に回っているのか、結果として自分が支払った分を合計して、そのうち何年か分が返ってこない、などということが分からなくなっている。
厚生年金+基礎年金
【図3】厚生年金、共済年金では基礎年金分をまとめて支払っている形になっている。しかしその内訳ははっきりしていない。実際には厚生年金、共済年金から集めた資金を国民年金に補填し、国民年金の給付にあてている。


「保険料」ではなく「保険税」で

——国民年金については、飲食店や美容師などの自営業店や、個人事業主やそこの従業員が入っていないケースが多いようです。こうした人々をどうやって加入させるかが、大きな課題ではないでしょうか。

【加藤】税金にすればいい。税金という名前にしなくてもいいが、たとえば保険税という形にする。基礎年金は国民皆年金といっているのだから、どういう名前をつけるかは別にして税金として取るのが、合理的だと思う。

本来、保険というのは、入った人だけが払い、払った人にだけ戻ってくる仕組み。生命保険などはみんな自分で選んで入っているでしょう。それが保険であり、そのために払うのが保険料だ。

そうであれば、社会保険庁のように徴収コストが税の何倍もかかっているところで保険料を集めるのではなく、税務署で保険税としてとればいい。

そのためには、役所同士の所管争いとか、本質的なことではない問題が出てくるだろうが、今回のような不祥事が起こった時こそ、基本からいろいろ見直すチャンスだと思う。

まとめると、まず、記録漏れの5000万件は不祥事なのだからこれは少々時間がかかっても事実関係をきちんと調べて処理するというのがひとつ。

ただしその不祥事の背後には、データシステムの問題だけでなく、複雑に分けられた仕組みがあるから、それを整理しないといけない。

その最も基本的な問題として、基礎年金がある。もともと3つの別の仕組みを統合して、一本であるかのふりをしても、実態は別々。そして、足りない国民年金のところに厚生年金などの資金、すなわちサラリーマンなど保険料を取りやすいところからの資金を回して補填している、という問題がある。こうしたことを変えるには制度全体を見直さねばならない。


「国に面倒見てもらう」が幸せなのか?

——そもそも年金は必要なのでしょうか。自分の老後は自分で面倒を見る、ということにしてもいいのではないでしょうか?

【加藤】いまの年金制度を老後の過ごし方、社会のあり方という視点で、一度基本から考えることが必要、と私は思う。公的年金か個人年金かという選択肢ではなく。

働いて得られるお金ではなく、「年金」によって老後の生計を立てていくというのは、本当に幸せな人生か、世の中にとってもいいことなのだろうか。

もちろん、生活の安心という面では、いまや不可欠なものになっている。しかし、近代国家以前にはなかったものであるし、これが唯一あるいは最善の方法なのだろうかとも思う。


年金問題の本質を鋭く分析する加藤秀樹氏たとえばある地方の田舎にいったとき、ひとりのお百姓さんから「年金というのは、あれは本当にいいものかね」と言われた。

昔なら70歳くらいまでは専業で畑仕事をする。それがだんだんとしんどくなってくると、野菜なんかを片手間で作るようになる。それもできなくなったら、息子がやっている畑の草を抜いたり、さらには孫やひ孫の面倒をみたりする。

そうやって自分ができる役割がちょっとずつ減りながら、一生を終えていっていた。

お金の出入りがあるかどうかはともかく、それが爺さんの役割、これがひい爺さんの役割、といった具合に何かしら仕事の役割分担があった。そのほうが年寄りが元気だった。その背後には家族、部落などによる相互扶助があった。

それが今では、年金もらって楽すればいいとなって老人ホームに入った瞬間にみんな弱ってしまうことが多い。元気がなくなって、ひとりで食事もできず、痴呆になるケースも多い。誰かに面倒をみてもらうとなると、体は弱るものだ。

働かなくてもよくなれば、手仕事もなくなる、後継者を無理して育てなくてもよくなる。コミュニティや伝統的産業も途絶えることになる。

昔はよかったと言う訳ではないし、昔に帰れるわけもない。しかし年金はあまり前のことではない。

「年金をもらって、誰かに面倒をみてもらうという仕組みというのは、本当にいいものかねえ」という基本的なことを、政治家こそが考えないといけない。

これは「福祉国家とは何か」という、本当はひじょうに大事な話だ。政治家の年金制度の知識をひけらかしても仕方ない。それよりも、国民全員からお金を集め、国がプールしてみんなに配るという集中方式がいいのか、もっと小規模の相互扶助の仕組みはないのか、などをこそ、政治家はきちんと考えなくてはならない。

加藤秀樹(かとう・ひでき)

「構想日本」代表。
大蔵省勤務後、1997年4月に「民」の立場から政策立案と実現を目指し、独立・非営利の政策シンクタンク「構想日本」を設立。国、地方の行財政改革や、教育、医療、環境など、さまざまな分野の政策提言を精力的に行っている。

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